二枚目のクレジットカード

どうやらタイでは、JCBってマイナーらしい。

ワンタイムパスワードを入れるところまでは進むのに、なぜか決済成功にたどり着けない。もう昨日の夜から幾度となく繰り返している。とんだ迷宮だ。正直、もう疲れた。わざわざタイの決済サービス会社に拙い英語で「助けてくれ」とメールまで送ったのに音沙汰なし。せめてうんとかすんとか言ってくれ。

 

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私は今、タイの俳優の追っかけをしている。とはいえ、今のご時世実際に追っかけることはできないから、ドラマを見たり配信を見たり曲を聴いたり、と日本からできる範囲で応援になる。

推しについて書くとそれだけで五本くらいブログが書けてしまいそうなので、今回は割愛するが。なんというか、なぜか無料で拝めるものが多すぎる界隈で、「頼むからお金を落とさせてほしい」という気持ちにさせられる、そういう世界なのだ。それにしても、タイ、タイですよ。じわじわとブームが広まりつつあるものの、まだ日本で気軽にグッズが手に入るような場所は出来上がっていない。

この推しのために、なんとしてもお金を落としたい。どうすればいいのか。

簡単な話だった。――推しの事務所の公式通販を使えばいい。

 

インターファンも多いからか、公式通販はタイ国内だけではなく世界中に推しのグッズを届けてくれる。なんて優しいのだろう。しかも物価がおかしい。安い。母に「日本人がタイに住むとお手伝いさんがつくらしいよ」と言われたのだが、なるほど確かに、と納得せざるを得なかった。たとえば、以前私が日本の俳優の写真集を買った時は野口英世が三枚消えたが、タイ俳優の写真集はその半分にも満たない額なのだ。二冊買えてしまう。こんな、推しの顔を拝ませていただくのに。今すぐ某イタリアンレストランの壁に飾られていてもおかしくないような、名画なのに。もっと払わせてほしい。

とはいえ、そのぶん送料に英世が三人連れ去られてしまうので、結果としてそれなりの金額にはなる。海を渡るのはそれだけ過酷ということだろう。知らないけれど。

こんなご時世のおかげで過去最大の貯金に成功していた私は、完全に金銭感覚が麻痺している。どうにかこうにかタイの通販サイトと格闘し、自分の持っているJCBカードを駆使し、推しの写真集を手に入れることに成功してしまった。Google翻訳って、ものすごく偉大。――この、「初の海外通販利用成功」が、わずか二か月ほど前のことである。

 

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それからも変わらずタイに現を抜かしているうちに、気付けば11月も下旬で、世間はクリスマスと年越しを待ちわびていた。

もう今年は通販を使うこともないだろうか、そう思っていた矢先に、推しのカレンダーとぬいぐるみ、そして新たな写真集の発売が発表された。嬉しい。新しい絵画。オタクの大好きなぬい。お金を落とせるぞ!

一度成功しているのだから、躊躇する必要はない。嬉々としてカートにグッズをぶちこみ、”check out”を押した。ここまではよかった。――なぜか、以前使用したJCBで決済が上手くいかないことに気付くまでは。

ここでようやく冒頭に繋がる。理由は未だに判明しないままだが、とにかくJCBは使えないということがよくわかったので、他の方法を探した。まどろっこしいことをせずとも、新しいカードを作ればそれが一番確実なのだが、「発行まで時間がかかってしまう」「プレオーダーなので今すぐぽちりたい」という非常に身勝手な気持ちが勝り、踏み切ることができない。

その後も調べ続け、どうやらVプリカなら即時発行で、例の通販でも使えるらしい、というところまではたどり着いた。ただ、正直いちいちチャージするのが面倒くさい。PayPal対応してくれればいいのに、と毒づいても、海の向こうにいる相手にはちっとも届きやしない。何せ、英語のメールすらスルーされているのだから。

 

……実は、カレンダーとぬいぐるみに関しては、公式通販ではなく、代行通販サイトで先に購入していた。なぜかというと、公式通販がどうにも遅いからだ。代行通販サイトは割高だが、その分送料無料で、対応もスムーズ、発送も早いと評判だった。この代行通販サイトがドル表記のため、なぜかタイ俳優のために為替市場まで気にしなければならなくなったのだが、時間と安全を金で買うと思えばお安い御用だ。

で、こちらのサイトはPayPalに対応しており、それなら使った方が安心では、ということに気付き、さっそく導入したのが、件の「JCB使えなくなってる事件」の前日だった。

 

代行サイトで写真集も頼んでしまえばいいじゃないかって?私も何度も考えました。でも代行サイトの割高加減が半端ではなかった。何度も計算して値段を比較したけれど、当然というかなんというか、やはり公式通販の方が安く済むのだ。代行サイトで一冊頼むお金があるなら、公式通販では二冊買えてしまうのだから。

何より、公式に需要を示したい。なるべく直に推しにお金を届けたい。で、あるならば。やはり、カードを作るのが良いのではないか、と。

調べた結果、カード実物はやはり二週間ほどかかるが、申請が通った時点でアプリでクレジットカード情報を受け取ることができる会社(?)の存在を知った。しかもネットで24時間いつでも申請可。要するに、ネット通販ですぐ使うなら十分、ということだ。

 

夜〇時過ぎ、半ば勢いだけで申請した。次の日、確認の電話がかかってきて、聞かれるがままに名前や生年月日等を答えた。そのわずか一〇数分後、承認された旨のメールが届いた。あとはアプリでカードの情報を確認してくれ、と。

……クレジットカードって、こんな気軽に作れて良いものだったっけ?

 

まさかPayPalを導入した次の日に、二枚目のクレジットカードを作るとは思わなかった。ここに書いた以外にもいろいろな手段を試そうとしたり、アプリを入れたりしていたので、冗談抜きで丸三日間くらいずっとタイの通販のことばかりを考えていた。

一瞬で発行されてしまったVISAカードのおかげで、無事に写真集プレオーダー完了。あとは到着を待つのみだ。なんというか、本当に。疲れました。

 

オタクってつくづく推しのためならなんでもできるな、としみじみ実感させられたのは、実は二枚目のカードを作ったときではなく、英語で問い合わせメールを送った瞬間だったりする。まあ、返事はないのだけれど。